リバイバル上映『ジュブナイル』20年を経ても褪せない輝き

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神保町シアターで映画『ジュブナイル』がリバイバル上映されている。これを書いているのが16日で、公開は17日までだから、ちょっと間に合わないかもしれないが、改めて映画館で見て素晴らしい映画だった。

この映画は特撮CG屋だった山﨑貴監督の初監督作品、デビュー作である。この映画には山﨑貴監督の初心、映画人としての最も良き部分、「キャラクターのテクスチャはがしてメタフィクションぽいことやって評価あげようかな」などという邪心が入る前の、純粋な気持ちで子供のためのジュブナイルを作っていた頃の山﨑貴監督の初期衝動が輝いている。お前まだドラゴンクエストユアストーリー根に持ってんのかよ。ごめん。でもこの映画を見ればあれも水に流してしまう、それほどの傑作である。

2000年公開の映画なので、当時の最先端だったVFX効果などはやや古くなっている。時を超えても色あせていないのは俳優たちの素晴らしさ、そして誠実に練られた脚本と演出である。やればできるじゃん山﨑貴監督。できる子じゃん。なんであんなドラ…ごめんもう許したんだった。とにかくそれくらいの素晴らしさである。

若き日の香取慎吾が天才ギーク青年を演じているのだが、これが素晴らしい。香取慎吾は昨年『凪待ち』で演技が高く評価されたが、本人も「凪待ちの話が来た時に「(草彅)剛じゃなくてオレ?」と思った」とインタビューで言っていたように、SMAPの中では木村草彅ほど俳優としての評価は受けていなかった感がある。でもこうしてみると、やっぱり役者としてめちゃくちゃ魅力的なのである。特にこの時期の香取慎吾はマッチョになり切る前、背が高くてスレンダーな少女漫画のような美青年ぶりが光っていて、それがギーク青年の役にピタリとハマっている。おおよそ「機械オタク」という人物像を描く時に日本映画史上最もいい感じに魅力的に描いた金字塔というか、2000年当時、この映画を見た女の子たちはみんな香取慎吾に恋してしまったのではないだろうか。

香取慎吾は不思議な役者だ。「凪待ち」や「クソ野郎と美しき世界・歌喰いの少女」性格俳優としてすっかりダークな影をまとうようになった今も、20年前の美しい青春SF映画ジュブナイル』でも、彼には暴力やエゴの匂いが全くしない。そうした危険な匂いが魅力の俳優というのももちろんいるのだが(例えば親友の草彅剛は作品に合わせてそういう危険な匂いを出したり消したりできる天才的な俳優だと思う)、香取慎吾という人は多分人間としてそういうエゴの匂いを欠いている人なのだと思う。

「凪待ち」でも「歌食いの少女」でも彼女は歳の離れた少女と同居する。この映画『ジュブナイル』でも彼は大学生くらいの年齢で小学生集団と行動を共にし、自宅やら山の中やらを連れ回したりするのだが、なんというか香取慎吾はあれだけ背の高い筋肉質な男性的肉体を持ちながら何処か男性性を欠いているようなところがあって、「大きな子供」として彼らの中にフラットに溶け込むことができるのだ。

この映画には若き日の酒井美紀鈴木杏が出演する。酒井美紀も宇宙人に乗っ取られる一人二役として見事な演技を見せるのだが、なんと言ってもまだ12歳かそこらの鈴木杏の演技が子役離れして上手い。主人公の少年が密かに片思いする同級生の少女役なのだが、「あんな男女」と仲間に言われるように、活発でユニセックスな少女を見事に演じている。『ジュブナイル』という映画の一つの大きな核はこの少女に対する主人公の少年の片思いなので、鈴木杏の名演はこの映画の成功に大きく貢献していると思う。

ネタバレになるが、2000年に作られたこの映画には2020年の後日譚がついている。その映画の中で、2020年に大人になった鈴木杏緒川たまきが演じている。あのおてんばだった少女が素敵な女性になって、というわけだが、今この映画を見る僕たちは2020年、本当に20年後のリアルな鈴木杏を知っているわけだ。去年名作舞台「キレイ」で見事な演技を見せたように、鈴木杏は今も第一線の女優として活躍し続けている。そして髪の毛をベリーショートに刈り、20年前も今も変わらない、猫のような瞳で観客を惹きつける鈴木杏は、この映画の少女、木下岬がそのまま大人になったように今も輝いている。

実写映画はフィクションでありながら、好む好まないにかかわらず生きた俳優たちのドキュメンタリー映像であることから逃げられない。この映画がリバイバル上映されたのは2020年がこの映画の中で特別な年であったということもあるのだろう。でも神保町シアターでのリバイバルが終わる明日以降も、何処かのミニシアターで再上映されたり、あるいはテレビ放映する価値のある、古びない名作だと思う。