最近、と言っても去年だけどnoteはじめまして、前半そっちで書きました。これはその続き。よかったらそっちも読んで見てください
noteにも書きましたけど、これとてもよかった。ZOOM演劇という制約が、逆に平易でストレートな近未来ジュブナイルSFの王道を可能にしている。細田守のサマーウォーズとか、ああいうものすごく広く受ける普遍的エンタメの匂いがする。チケット2800円安いと思いました。四連休限定上映なんでおすすめです。
金を取るエンタメとして成立してるのは、脚本の良さもあるけど、出演してる俳優がみんな上手い人たちなんで、ぶっちゃけて言ってしまえばこれくらい上手い俳優がそろってたらラジオドラマ、音声だけでも物語は運べてしまう。僕は電車で長時間移動中にスマホとイヤホンで見てたんだけど、画面から目を離しても俳優たちの声だけで十分にドラマが分かるんです。そういう観劇の仕方ができる演劇というのはそうない。でも映像の方でも仕掛けはあって、表情の演技もそうだけど、noteの方にも書きましたがコトリさんだけ照明を変えていたり工夫がある。
始まったばかりの形式なんで、完成度というかまだ手探りの部分はあると思うんですよ。たとえば生配信形式でやってる演劇なんで、お互いの台詞を聞いてから自分の台詞を言う。これ、おそらくZOOM配信のタイムラグ、回線に加えてPC処理速度のラグがあるんで、どうしても生の演劇に比べて「間」が変わるんですね。マシンガンのようにしゃべっている誰かに誰かがわって入ってというスピード感を出しにくいところはある。
リスクという意味では、出演俳優の誰かの家が停電や回線障害になったら芝居が止まってしまうというリスクもある。ただ、それも含めて生配信というライブ性を選んでいるということなんだと思います。
noteにも書いたことですけど、この状況下で野田秀樹も劇団四季も、アメリカのブロードウェイさえもまともに公演が打てなくなった。ただ、それ以前から演劇ってけっこうレベルが上がりすぎてハードル上がってたところあると思うんですよ。このZOOM演劇って、やむなく出て来た手段なんだけど、そういう高く積み上がった演劇の山を一度ガラガラっと崩して作り直す、演劇の初期衝動回帰みたいな楽しさがあると思う。
こういうのって音楽にもあって、あまりに音楽のテクニックが高く積み重なると、パンクロックやヒップホップみたいに間口の広い音楽形式が揺り戻しをかけるという動きってあると思うんです。ZOOM演劇ってそういう生命力がある形式だと思う。
今、世田谷パブリックシアターで鈴木杏さんが『殺意ストリップショウ』という一人芝居をやっていて、すごい高い評価が聞こえてくる。これは感染症対策で、完全な一人芝居だからリスクを下げられる、その分を圧倒的な個人技、演技力で支えるという舞台なんですね。
映画「ジュブナイル」のページにも書きましたけど鈴木杏というのは12歳の時からめちゃくちゃ演技が上手くて、一緒に出ている同年代の男子たちがかわいそうになるくらい上手い。そういう女優が圧倒的な演技力で見せるという方法も演劇の方向として一つはある。
もちろん『むこうのくに』 に出演してる俳優さんたちもすごく上手いんだけど(でないと2800円は安いという感想にはならない)、脚本そのものがやろうと思えばお前もやれるぜ」という平易な脚本になってるんですよね。音楽で言えば鈴木杏の一人芝居がエリック・クラプトンのギターソロみたいなものだとしたら、「むこうのくに」はアマチュアバンドがコピーできるバンドスコア楽譜のように脚本が書かれてる。そこが優れてるところだと思いました。
今、こういう状況で、演劇がほんとに危ない状態にある。第1波であれだけ被害出たのに第2波はもっとデカいわけだから。そういう中でこういうスタイルの演劇が出てきて、しかもただ「やってみました」だけではなく、配信を見るとわかりますけど、「こうすればイケる」という文法を探り当てつつある。今、こういうのを俳優や演出家がお互いにシェアして、パクりあって一つのスタイル、文化を作りつつある状態だと思う、あるいはそうあるべきだと思うんです。そういう文化の黎明期の匂いがあって、そういうのって戦後の焼け跡から漫画文化が立ち上がったみたいに、大きな社会変動の中で生まれるものだと思う。
逆にいうと、今まで演劇というのは東京に住んでいる人たちが圧倒的に有利だった。もちろん京都を中心に活動している『安住の地』(ツイッターで日下七海さんが中国枇杷の演奏で注目を集めている)など、東京以外にも才能ある劇団は沢山あるんだけど、でもやっぱり東京の優位性は動かなかった。東京の批評家が新幹線に乗って見に来るかと言ったらこない。
でもこういう配信演劇の時代になったら、例えば九州のローカルアイドルだった橋本環奈がネットに上がった写真一枚で全国区になったみたいに、日本中の劇団に一発逆転のチャンスがあるわけですよね。そういう意味では協力と競争が同時に起きるという、漫画のトキワ荘みたいな幸福な状態が日本の、あるいは世界の演劇文化に訪れる可能性はある。
というか、逆に言えばそういう活路を見出さないと本当に演劇は危ない。
「適応進化か、それとも絶滅か」みたいな時代なんだと思います。
そういう中でこういう生命力のあるエンターテインメントが出てきたのは嬉しい。
四連休限定公演です。ぜひこの連休に、おすすめ。
チケット購入ページ。
http://mukounokuni.peatix.com/