そもそも最初から「つよポン主演」という時点で色々な方面の色々な圧力がアレしてるところにですね、まあ共演Aさんの目下公判中でしかも罪状否認で推定無罪という非常に言及するのも難しい状態の問題が加わっちゃいまして、そんなこんなで延期になってた「台風家族」なんですけど、あなたこれがまさかの大傑作ですよ。見に行け。悪いこと言わないから。こんな面白い映画をいろいろなアレで宣伝が難しい感じにすんじゃねえよまったくもう。
草彅剛さんの演技力についてはもう「クソ野郎と美しき世界」「まく子。」など何回か言及してるんですけど、「新しい地図」の中でダントツなのはもちろん、これ日本の俳優全体でもアウトロー俳優として相当なレベルだと思う。例えば同じ「新しい地図」には香取慎吾がいて、彼と草彅剛は昔から親友だけど、俳優としての方向がちょうど正反対なんですよね。香取慎吾は「凪待ち」で一気に評価をあげたと思うけど、あの体格で暴れてもどこか怖さがない、暴力性やエロスを感じさせない、大きな子供みたいな不思議な雰囲気を持った俳優なわけです。草彅剛は反対に、あんなに痩せて細いのにどこか怖い。「クソ野郎」で演じた、子供をなくしたヤクザなんて本当に凄みがあったし、「まく子。」の女たらしの父親もすごく怪しげなエロスを漂わせている。ちょうど表と裏みたいに2人が相反してるんですよね。ただ、草彅剛という俳優が一歩抜けてるのは、その自分の個性、アウトロー俳優としての殺気やエロスみたいなものを作品によってはあっさり消してしまうことができる。この台風家族で彼が演じるのは実はそこまでアウトローじゃない、変に見えて実はわりとまともな人なんですよね。そうすると彼はちゃんと狂気とか殺気とかのレベルをコントロールする。それも完全に消すんじゃない、全開から少し落として消えかけのトロ火くらいのところまで微妙な調節ができる。これってずっとやってきたプロの俳優でもそうそうできる人っていないんで、ちょっとすごいと思うんですよね。何作か見比べると草彅剛が素材の輝きだけじゃなくて、本当にプロの俳優としてセルフコントロールの技術があるのがわかる。
ただこの『台風家族』、草彅剛だけじゃなくもう全員の芝居が上手いんですね。下手な役者が一人もいない。MEGUMI、尾野真千子も素晴らしいし、フリーターを演じた中村倫也もめちゃくちゃ上手い。共演者Aさんにつきましては軽々しくコメントするのが目下非常に難しい状況にあるわけですけども、上手いか下手かっつったらまあクソ上手いですよ。彼も草彅君と同じように、作品によって狂気や暴力性の演技を調節してコントロールできる。日本版の『SUNNY 強い気持ち 強い愛』で彼はブラック企業のパワハラ上司を演じてるんだけど、ニコニコ紳士然としたところから突然暴力性をむき出しにする、そのたった何十秒しかないシーンなんだけどもう映画全体がピリッと引き締まるわけ。『SUNNY』のDVDにもノーカットで収録されてるんでほんと一度見てくださいというくらい上手い。この作品でも草彅君とがっぷり四つなんだけど、日本有数のバイプレイヤーである（だった）彼に押し負けていない草彅剛ってやっぱすごいわけですよ。
たとえば中村倫也が出てて、彼の出演作でもかなりのベストアクトではという良い演技になっている。全員上手いからお互いに化学反応が起きるというか、玄関から一人ずつ出てくるスローモーションのシーンがあるんだけど、そこの中村倫也が神がかりにかっこいい。全員で撮るスローモーションって基本撮り直し効かないと思うんですけど、「持ってる俳優ってこういうものか」という映り、スクリーン映えになっている。
草彅剛の娘役を演じた最年少の甲田まひるさん、演技としてはまだ初々しい感じなんだけど、この子がまた清原果耶と広瀬すずの中間みたいないい雰囲気持ってるわけですよ。誰だこの子？と思って調べてみたら、女優でもアイドルでもモデルでもなくジャズピアニストと。役者じゃないのにあんな清原果耶広瀬すずミックスみたいな絶妙の雰囲気出すのアリなのかよと。すごいな。
ストーリーとしてもすごく面白い。邦画の小規模良作というより、アジア映画の低予算名作みたいなワイルドなパワーがある。これ本当に見る価値のある映画だと思います。前述したように非常にめんどくさい理由によって宣伝すらめんどくさい感じになってしまっています。「舞台挨拶にキャストが勢ぞろい！って書いてあるけど一人いなくね？」「だまれ」「うわーこのポスターあれじゃんフォトショップに搭載されたばかりの集合写真から一人消すあの最新技術が最高のシチュエーションで使われてるじゃん配給会社の宣伝担当はadobe様様だろうな」「だまれ」という状況ではあります。でも映画としては本当に面白いです。おすすめ！
