映画『キングダム』感想。山﨑賢人と吉沢亮の演技力、そして日本映画が見始めた海外展開の夢について

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投じられた破格の予算と俳優の素晴らしい演技、海外進出をにらんだ日本映画だと思う


『キングダム』を見た観客は、「吉沢亮と山﨑賢人って対照的だな」と思ったのではないでしょうか。特に、山﨑賢人を他の映画で見たことがない人は、「吉沢亮はすごく整った顔だけど、山﨑賢人はワイルドな顔だな」と思うかもしれない。

でも実はこの二人、顔立ちはけっこう似ているんですよね。これらの記事の写真を見てほしい。

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 そして、映画『キングダム』の宣材写真の山﨑賢人と比較してみてほしい。

 

 

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実は、映画宣伝ポスターでは山﨑賢人は一度も「無表情」になっていない。怒りの表情も笑いの表情もあるけど、それらはすべて顔を大きく歪めて強調されている。これは映画の中でも同じで、山﨑賢人演じる信は常に顔を歪めている。特に喜怒哀楽に大きく振れていない時にさえ、口角を下げて「ふん」という表情を常に作っている。

つまりこれが何かというと、山﨑賢人の演技なんですね。どういう演技なのかというと、言うまでもなく吉沢亮演じる嬴政(えいせい)との対比を作り出すために、山﨑賢人の本来の端正な顔を表情を歪めて隠しているわけです。

吉沢亮は山﨑賢人に呼応するように、表情をほとんど動かさない。日本のことわざに「武士は三年片頬」というのがあって、サムライは三年に一度片頬だけで笑う、それくらいでいいのだということわざ。嬴政というのは秦の王なんだけど、無表情でいると神秘的で思索的に見える。もちろん僕が無表情でいたところで「あれっ、焼きそばパンを食った酔っ払いが吐いたゲロかな?なんだCDBさんの顔か」と不要な誤解を招くわけですが、吉沢亮ほどの顔が無表情でいるとそこにはえもいわれぬ神秘性が香り立つし、逆に徹底して無表情な嬴政が少し目を見開いただけですごく感情の動きを感じる。

『キングダム』という映画はこの「山﨑賢人と吉沢亮の対比」が物語の軸になる、すごく大事なところなんですね。王と奴隷、身分も教養もまったく違う。「甲乙つけがたいイケメンが二人いる」というのは恋愛映画ならいいいけど、キングダムでそう観客に思わせては絶対にいけない、それが山﨑賢人と吉沢亮の演技に出ている。

 

映画『四月は君の嘘』の感想にも書いたんですけど、山﨑賢人という俳優は役ごとにすごくアプローチを変えてる。一作だけ見てるとわからないけど、オラオラ系のイケメンからメガネのナイーブな少年まで、完全に変えて演じているんですね。今回もそうで、「信というキャラクターは何であるのか、嬴政に対してどう差異化しなくてはいけないか」ということがよくわかっている。それで映画の中では一秒も「シュッとした顔」を見せない、泥臭くて粗野な奴隷上がりの少年を演じている。

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 吉沢亮は嬴政と漂の二役でもあるんだけど、ここでは一人の役者として演じ分けることで対比を見せる。演技力がないと二役なんてできないんですけど、表情の動きで育ってきた環境を表現していた。『なつぞら』の山田天陽はまったく違うキャラクターで、吉沢亮ってクールでトゲのあるところが持ち味だと思うんですけど、そういう危険な匂いを完全に消して、ちょっと聖化されたようなイメージにしている。天陽って彼本来のストライクゾーンの役じゃないと思うんですけど、見事に寄せている。上手い役者なんだなあと思います。

 

 

橋本環奈と長澤まさみの対比もよかった。これはもう身長でめちゃめちゃ対比が効いているんですけど。橋本環奈さんって、あまりにも美少女であることと、あまりにも小さいことで現代の日常劇にとけこめないみたいなところがあるんですよね。でもこういう漫画原作のスペクタクルではCGいらずの生きた妖精みたいに彼女の特質が生きる。長澤まさみはもはや日本女優の中盤の要ですよね。

あとは本郷奏多さんの暴君ぶり。さすが神木隆之介くん以外の友達がいない(本人談)男。素晴らしい人間不信感が出ていました。

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『キングダム』という映画は、日本映画界が明らかに海外進出をにらんで映画に予算を投じ始めている、そのさきがけみたいな映画だと僕は思っています。ここ数年、漫画を原作とした実写映画のクオリティがみるみる上がっている。『キングダム』だって発表の時はぼろくそ言われたわけだけど、出来上がってみたらものすごくお金をかけて高いクオリティになっていた。これって映画界が「国内のファン向けに安く作って儲ければいいや」ではなくなっていることの表れだと思うんですよね。興行的には上手くいかなかったけど、同じ山﨑賢人の主演した『ジョジョ』だって実は悪くなかった。今までは1億人の内需で充分食えるんだから、その中でたまたま外国にも受けるものがあればラッキーという感覚だった。あとこれは悲しい事実ですが、なんだかんだ言って欧米人はアジア人が演じる映画をあんまり見てくれないというのもあったと思います。でも中国はじめ、アジア人は同じアジア人の映画を見てくれる。お互いがお互いの市場になりうることがわかってきたわけです。韓国映画の海外進出を皮切りに、中国市場をはじめ、台湾や香港や韓国、そして東南アジア諸国から中東までをにらんだ、非欧米の映画市場が開かれつつある。山﨑賢人はすでに微博(中国版ツイッター)を開設しているとのことですが、そういう映画の世界大会みたいなものが始まっていると思うんですよね。確かに日本映画は出遅れているところもあるけど、そこで勝負できないわけではない。良い俳優がいて、投じる予算を提供する人口もまだある。『キングダム』ってある意味ではその第一次日本代表チーム選抜みたいなものだと思うんです。吉沢亮の顔の美しさとか世界普遍だと思いますし。素晴らしい出来を見る限り、作り手の「俺たちはやれるはずだ」という強い意志を感じました。