松井玲奈『カモフラージュ』感想。松井玲奈1人監督による小説版『21世紀の女の子』+男の子のような連作短編

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松井玲奈リローデッド』的な第二章の幕開けとなったデビュー小説短編集




文春オンラインで松井玲奈『カモフラージュ』の感想を書かせていただきました。

 

https://bunshun.jp/articles/-/11422

 

宇多丸師匠がラジオで「度肝を抜かれた」「一作ごとに文体も人称もスタイルも変えている」と舌を巻いた6作の短編集。本当にデビュー作として見事だと思います。松井玲奈さんは短編映画オムニバス『21世紀の女の子』の中の『reborn』に主演しているのだけど、この小説は松井玲奈が出演者ではなく監督になって自分にとっての『21世紀の女の子(+男の子)』を連作短編として書きあげたような感がある。

 

『リアルタイム・インテンション』で一部だけ三人称が挿入されるんだけど、実はそれが作者の語りではなく、動画配信の固定カメラを表現した無機質な文章だったりという技巧もあって、文章が新人離れしているということもあるんだけど、内容的にも『いとうちゃん』という短編は、可愛いものが好きでメイドに憧れてメイド喫茶で働く女の子がだんだん太ってしまってメイド喫茶の客から排除されてしまう、ある意味では芸能界の寓話みたいな内容で、それを単純に善悪や性的消費論で割り切るのではなく、主人公の意識に潜るように繊細に描写しながら、あるべき可能性を探っていく。松井玲奈さんの中にフェミニズム的な感性って間違いなくあるんですけど、フェミニズムでは回収できない感じ方をする女の子がいることもわかっていて、その二つの間の接点を探していく小説になっている。島本理生の『ナラタージュ』にもそういう面があるんだけど、作家としてもうちゃんと軸ができている感がすごいと思います。

もうひとつ思ったのは、松井玲奈さん、たぶん個人の才能、志向を大切にしてくれる良いスタッフにめぐまれてるんだろうなということ。「まんぷく」という国民的朝ドラに出演しつつ、一方で『21世紀の女の子』みたいな単館系のすごく尖った映画にも出演できる。小説にしても、FC会報に書いた短編がきっかけでスタッフが出版社の編集者を紹介して始まったことらしいんだけど、もっと自分を売っていく感じの小説にプロデュースされることだってありえたというか、普通そっちの方向ですからね。たぶん長いスパンで見て、松井玲奈という才能を大きな木に育てるんだっていう愛情がスタッフの側にないと、いくらでもお金になる仕事ができる時間を割いてこういう静かな小説を書くっていうことは普通やらせてもらえないと思う。

カバーアートもすごく良くて、抽象画のように見える小さな絵が集合して、一人の女性の横顔をモザイク的に構成している。女性の写真モデルは松井玲奈さんなのかは不明ですけど(そこがまたいいと思う)、一見すると私小説的なリアリズムとは違う、形而上的な短編の集合に見える小説群が、引きで見るとヒューマンな横顔に見えるっていうアートなんですよね。装丁:岩瀬聡、アートワーク:武居功一郎というクレジットなんだけど、どんな批評よりも的確に、視覚的に『カモフラージュ』の内容を表現している。こういう作品的なアートを依頼するというのはその分予算もかかるわけだけど、ちゃんと手を抜かずに素晴らしいアートワークにしている。スタッフサイドが松井玲奈さんに愛情と情熱持ってないとこういう装丁には絶対にならない。

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カバーを外した中もいいので買ったら見てみましょう

 

島本理生森見登美彦、ライムスター宇多丸という多彩にして多才なメンバーが推薦の辞を寄せているんですけど、体験私小説を一発出して終わりじゃなくて、社会のことをこれからも書いていける、思考と言葉を持った楽しみな新人の登場だと思います。