映画『賭ケグルイ』感想 貧富の激突を描いたスクールカースト階級闘争ギャンブルシネマの傑作!福原遥の名演も光る

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若きモンスター女優、浜辺美波に人生を賭けて挑んだ福原遥の名演。作品としても超一級


シーズン2までできた人気ドラマシリーズの映画化なんだけど、原作未読、ドラマも見ずに冷やかしで見たこの映画、めちゃくちゃ面白かったです。「カイジ」以降、デスゲームものって難病悲恋映画に匹敵するほど作られまくっていて、「またか」と敬遠してたんですけど、ズバ抜けて面白かった。たぶん何の知識もなくこの映画だけ見てもちゃんと理解できるしめちゃくちゃ面白いと思う。実際僕がそうだったし。

ギャンブルですべての階級が決まる学園で生徒たちがギャンブルをする…「またか」と思うじゃないですか。今回、映画オリジナルの脚本なんですけど、スクールカーストの中で階級闘争的なテーマを描いてるんですよね。ギャンブルに負けて人間扱いされてない生徒たちを救済する「ヴィレッジ」という宗教的な集団が出てくるんですけど、副音声(この映画は映画館内でスマホアプリと連動して副音声解説が聞けるシステムを実験しています。ネタバレ全開なので二回目以降のおすすめです)で英勉監督が「レ・ミゼラブルを意識した」と言っていて、革命とも宗教ともつかない集団、その思想とギャンブルというある意味では資本主義のメタファーが真正面からぶつかる。その中心に神とも悪魔ともつかない浜辺美波演じる蛇喰夢子がいる。

 

その女優の本質が遺憾なく出るような役、という作品に若くして巡り会う強運な女優がいるんですけど、松岡茉優にとってのそれが「勝手にふるえてろ」で、広瀬すずにとってのそれが「ちはやふる」だとしたら、浜辺美波の代表作は「キミスイ」ではなくてこの「賭ケグルイ」ではないかと思うんですよ。競技百人一首というスポーツは広瀬すずのスポーツ気質、コンマ一秒の世界で溢れるアドレナリンをスーパースローで撮影したことで大成功したんだけど、浜辺美波の演技のポテンシャルはギャンブル、心理と知性をフルに発揮するシステムの中で観客に全貌を現している。

 「18歳なのになんでそんな壇蜜みたいな演技してんだよ」というパロディックなまでに誇張された仮面の奥で、ある時にガッと本当の顔を見せる、すべてを計算しながら一番奥で善とも悪ともつかない炎が燃えている、そういう素晴らしいキャラクターに蛇喰夢子がなっている。浜辺美波が怪物だ怪物だと言われる理由がこの映画見て初めてわかったというか、やっぱすごい頭のいい女優、インテリジェンスのある役者だと思うんですよね。副音声のコメンタリー18歳でこれは確かに後世おそるべしだと思う。

 で、この浜辺美波に挑む映画オリジナルのキャラクター、福原遥がめちゃくちゃよかった。すごい難しいのは、「福原遥の演技がすごい」って書くこと自体がある意味ではこの映画のネタバレになりかねないということなんですけど、やっぱり女優として完全に彼女のエポックになる作品だと思う。

 福原遥って劇場版の『チアダン』で広瀬すずと共演してるんですけど、その時はアイドル的にひたすらニコニコしているキャラで、演技力の見せ所ってあまりなかったんですよね。アクターってほとんどの人がそうで、まず画面に映るところ、台詞がもらえるところに辿り着くまでが並大抵ではない。チアダンの広瀬すずってやっぱりすごくて、共演した中条あやみは衝撃を受けた経験を語ったりしてるんですけど、

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でもこれは僕の勝手な予想ですけど、福原遥は『チアダン』で共演しながら「悔しい、私もチャンスがほしい、広瀬すずと演技で勝負するような役がもらえたらきっと世の中を驚かすことができる」と内心考えてたんじゃないかと思うんですよね。で、今回、浜辺美波というとんでもない演技モンスターとサシで勝負するような役をついにつかんだわけですけど、臆するどころか完全に食い殺しに行く、ジャイアントキリングを狙いに行っている。

その福原遥の人生を賭けた演技勝負を受けてたつ浜辺美波がまた悠然として演技の複雑さ、奥深さを見せるのが映画の中の関係性そのものなんですよね。池田エライザが生徒会長の桃喰綺羅莉役なんですけど、ちょっと上の方の席にいて「私はあなたたちみたいに顔芸で白目剥いて勝負するようなポジションに最初からいないから…エライザは生まれながらにしてエライザであり天は人の上にエライザを作ったから…」みたいな感じの演技なのがまた役と役者がリンクしているという。

 

乃木坂を卒業した伊藤万理華さんが出てるんですけど、彼女も素晴らしかった。わりと丸顔で、そんなにボーイッシュなイメージじゃないと思うんですけど、それが犬八という役にぴったりだったんですよね。無理して頑張っているという。伊藤万理華さんもやっぱり、この役に女優人生賭けて勝負している。若いキャストがみんないいんですよ。

勝手に思うのは、広瀬すずってたぶんこういう映画出たいだろうなと。完全にアドリブ大会、演技の殴り合い、バーリトゥード通り越して若手俳優パンクラチオンみたいな映画で、「自分こそが!」と思いながらもそこにお祭りのように楽しい雰囲気がある。広瀬すずってCMも大量に背負い、もう二十歳にして完全に映画界やテレビ界の二階席に上げられてしまったような所があるけど、本当は同世代がこういう好き放題ドタバタやってる作品がうらやましいのではないかと思う。

とにかく良い映画。単なるデスゲーム映画ではなく、そこに強者と弱者、個人と集団をめぐる物語があり、うわべの偽善を剥ぎ取る物語と、一件アナーキーで快楽主義的な蛇喰夢子の中に燃える「戦うことの尊厳と人間の誇り」が剥き出しになる。蛇喰夢子っていう人物は最終的に「管理される」ということを物凄く嫌う人間なんですよね。「さあ!さあ!さあ!賭け狂いましょう!」とクライマックスで彼女を演じる浜辺美波は絶叫するんだけど、それは自由と悪の賛歌、だからこそ人間の根源的な怒りや尊厳の側に立つ言葉なんですよ。「弱者には団結という武器があるが、でも団結は裏切りもある。でも能力も団結もすべて等価な賭けなんだよ、さあ賭けろ!戦え!」というのが蛇喰夢子がクライマックスで見せる悪魔的ヒューマニズム。そういう物語です。公開終盤の紹介になっちゃったけど、副音声付きで2回見たくなると思います。松村沙友理ことさゆりんご様の台詞がほとんどなかったのは残念ですが、ドラマで大暴れしてると聞いたのでぜひ見てみたいと思います。

超オススメ!