映画『21世紀の女の子』全作品を『グラップラー刃牙』の選手入場風に紹介・感想を書いてみた

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題しまして『グラップラー結希』

 

 


見て来ました、映画『21世紀の女の子』。山戸結希監督の企画プロデュースの元に、若き女性監督が集結し、8分間の連作短編を競う。実は僕はこの映画の公開前に新宿テアトルでやった日本初の試写みたいな時から見て面白いなと思っていたんですが、感想を書くのが難しいんですよね。感想たってさ、15作品あるわけだからどれ書けばいいんだと。公開後の感想を見てもみんなそれは同じみたいで、映画の全体的印象を書いている人が多い。もちろんそれはいいんだけど、どんなのあったっけ?と思い出せる全作品感想があってもいいと思うんですね。そこで漫画『グラップラー刃牙』に選手入場だけでまるまる一週使い果たした有名なシークエンスがありまして(知らない人は21巻を読んでみて下さい)アレで全作品紹介・感想書いてみようと。

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いや読んだことない人は意味わかんないと思いますけど。わかったら面白いのかと言われるとまた別ですけど。とにかく行ってみましょう。

 

 

 

 

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はい。まず加藤綾佳監督作品『粘膜』から。順番的には後の方の短編なんですが、繰り上げて冒頭に持って来たのは『武神!!愚地独歩だー!!』を日南響子でやりたかっただけちゃうんかと言われるとまあそうなんですけどね。日南響子めっちゃファンなんですよ。総合格闘家って言いますけど、日南響子マジで総合表現者だと思うんですよね。歌ってよし演じてよし、おまけに絵も上手けりゃ頭も良い。公開前に加藤綾佳監督と山戸結希監督らをまじえて新宿テアトルでやった試写後のイベントでも、もう女優というより海外のアンカーウーマンのごとく落ち着いたトークで事実上の司会進行だったりして。この人が『21世紀の女の子』オーディションに参加した時はもう受かる受からない以前に監督間での争奪戦になったとのことですけど、結局、獲得したのは加藤綾佳監督。実は主人公は女性のウェットな面を演じた久保陽香さんの方みたいなところもあり、この方もすっごい美人。加藤綾佳監督の女優争奪力はなんなんでしょうか。2人の対比が効いてましたね。ちなみに加藤綾佳監督、舞台挨拶に行く途中の路上でナンパされて映画監督だと行っても信じて貰えなかったというエピソードをツイッターで披露していました。

 

 

 

 

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続いては安川有果監督『ミューズ』。続いてはっていうか本当はこれがトップバッターです。山戸結希監督から出たお題が「セクシャリティジェンダーのゆらぎ」で、みんな正面からのフェミニズム的表現は重なることを予想して裏をかきに行ったような面もあったと思うんですけど、これは真っ向からミューズ批判、男性の女性幻想批判で、ただ単純なあてはめ善悪論ではなく、女性の死が自殺か事故かという謎を他者の内面というテーマに重ねている。どっちが彼女を理解していたのかというのは実は謎なんですが、でも女性カメラマンは恋をしていたことに気がつく。これ、男性作家を演じた村上淳さんもすごく良かったですね。こういう男性の何が問題なのかを理解してないとああいう演技はできない。まあUAの旦那で虹郎の父ですからね。主演女優の二人もすごく良かったです。

 

 

 

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竹内里紗監督『MIRROR』これはもう主演二人の一騎打ちみたいな会話劇、しかも中身は表現論、被写体論みたいな内容。単に頭でっかちの議論ではなく、属性をカミングアウトした途端に作品がその属性にカテゴライズされて評価されてしまう、撮るものと撮られる者の非対称、いろんなテーマを「かつて恋人だった2人、かつて幸福だった創作」に重ねて楽園追放劇のように見せる演出が見事でした。8分じゃ惜しいなあ。瀧内公美朝倉あき主演組に加えて手島実優さんももっと見たかった。

 

 

 

 

 

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台詞は『バキ』のパロディなので気にしないで下さい。東佳苗監督『Out of fashion』。モトーラ世理奈さん演じる服飾女子の前に立ちはだかる困難と、それに立ち向かっていく女子たちに向けたエール。彼女たちを取り囲む社会の描き方はリアルだけど、すごく力強く、ストレートなエンパワメントになっていたと思います。

 

 

 

 

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山中瑶子監督作品『回転てん子とドリーム母ちゃん』。全作品の中で一番設定が飛ばしていたと思います。中華料理のターンテーブルに小さい女の子が乗って、周囲を取り囲む女性たちのガールズトークに時には質問をさしはさむ。しかもそれはある種の形而上的な夢だったという。日本初公開試写の時は確かこの作品がトップバッターだったと思います。出演女優いちばん多いかも。

 

 

 

 

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枝優花監督『恋愛乾燥剤』。『少女邂逅』とはガラッと雰囲気変えてコミカルですけど、「普通のありかた」に対する違和感は共通しているかも。このまま『世にも奇妙な物語』に出しても普通にエンタメ作品として成立しそうですね。商業映画を撮る腕もあるという所を見せた枝優花監督でした。パンフレットの「男の子を記号的に書かないように気をつけた」というコメントもとても良い。この短編に限らず、パンフレットの解説はマストバイです。

 

 

 

 

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金子由里奈監督作品『Projection』監督の半実話的作品なんですが、『獣になれない私たち』の伊藤沙莉さんが出ていて「うっそ?どれ?この子?マジで?」と何回も調べ直したほどイメージが違う。すごい演じわけですね。いまだにほんとにあの松任谷夢子がこの子?同姓同名じゃなくて?と確認してしまうほど違う。恐れ入りました。

 

 

 

 

 

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首藤凛監督『I wanna be your cat』。今回大きく分けて「自立エンパワメント系」と「ダメ自分ぶっちゃけ系」がある気がするんですけど、完全にダメ自分ぶっちゃけ派の最右翼的作品。ダメファンダメンタリズム。タイトルからして「ネズミ獲るからマタタビくれや」というゴロニャン気質が炸裂しています。それもまた人生です。木下あかりさんチョーかわいい。

 

 

 

 

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夏都愛未監督『珊瑚樹』。三人の高校生の中の愛憎を描く、24年組少女漫画的なテイストもある作品。これは8分では短すぎた気もしますね。もっとこの子たちの物語を見たかった。三人それぞれのキャラクターが鮮やかで良かったです。

 

 

 

 

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松本花奈監督作品『愛はどこにも行かない』。橋本愛が可愛すぎる。橋本愛ってクール系の役が多いと思ってたんですけど、可愛いに振ったらここまで可愛いというのが衝撃でした。ナレーションの声すら可愛い。作品の演出としてもテーマやメッセージは込めつつ「可愛くて何が悪い」という方向で全力橋本愛推しでしたね。松本花奈監督グッドジョブです。

 

 

 

 

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井樫彩監督は『真っ赤な星』の舞台挨拶も見に行きまして、あの映画もすごくいいんですよ。郊外の雑然とした中にある天文台を普遍性、精神性への架け橋のように少女と女性が大切にする話なんですけど。今回の短編もタイトル通り全編ベッドシーンながらジェンダーの揺らぎというテーマを扱っていて、井樫彩監督の元々のモチーフとも関係がある。何はともあれ映画がR指定つけられなくてよかったです。

 

 

 

 

 

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ふくだももこ監督『セフレとセックスレス』。強烈につかむタイトルの上に「弾き語りの歌でここまでの状況を説明する」という暴力的説明力で8分間を有効に使います。作曲もふくだももこ監督で、才人ですね。21世紀の女の子というタイトルなのに相手役の男性俳優が非常にエロいのは良いことです。

 

 

 

 

 

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『バキ』の入場アナウンスの台詞をパロディにするのかしないのかはっきりしろって話ですが、これ↑はバキのパロディで、松井玲奈さんこんなこと言ってませんので念のため。松井玲奈さん、憂いのある表情、鋭さのある目が良い感じで、女優としても化けるんじゃないでしょうか。特に文芸系の映画に合うと思う。『ナラタージュ』の島本理生先生とも交流あるっぽいし、今後が楽しみ。今作では「私の半分は海にある」という台詞が印象深いです。

 

 

 

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連作の最後を締めるのは山戸結希監督自身の『離ればなれの花々へ』。これは劇や物語と言うより三人の少女の口を借りた山戸結希監督のステイトメント、創作宣言に近い感じでした。『溺れるナイフ』でも俳優のアドリブに任せたり、あるいはイメージ的な映像が何分も続いたりという前衛的な演出があったんですけど、山戸結希監督って舞台挨拶でもすごい面白いんですよね。ふわっとした外見に高くて可愛らしいトーンの声でゴリッゴリに抽象度の高い語彙で映画論を語る、しかも語り出すとほぼ止まらなくなり、しばし出演者が置き去りになることも。女子力の高いエレカシ宮本先生というと余計にわけがわかりませんが、山戸結希監督の舞台挨拶があったら是非おすすめです。語る内容も濃いし、天才感がみなぎっています。

 

 

 

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エンドロールのアニメーションと主題歌もすごく良かったです。

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というわけでバキなんだかバキじゃないんだかという感じで全作品の感想を書いてみました映画『21世紀の女の子』。今までにないスタイルなんで戸惑うところもあるかも知れませんが、これほどのショートフィルムによるオムニバスって面白いですよ。8分じゃ消化しきれないテーマを抱えた作品がほどんどですけど、ほんとある意味では選手紹介、これから活躍する人たちの顔見せだと思うんですよね。上映拡大を望みます。お近くに上映館があればぜひ。

 

 

 

 

ちなみに原作の入場シーンがあるのは板垣恵介先生の『グラップラー刃牙』21巻でした。未読の方はおすすめです。


グラップラー刃牙 21 (少年チャンピオン・コミックス)