映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』感想

正直、大根監督の演出や宣伝にどうかと思う部分がなくはなかった。韓国版が素晴らしいということもあって原作と比較して叩かれるのは目に見えていたし、そもそも繊細な女性映画を日本で映画化する時に人選が大根監督なのか?という。でもそれにも関わらず、やっぱり広瀬すず山本舞香池田エライザ富田望生のコギャル組と篠原涼子たち大人組のおかげですごく良くなった映画だと思う。映画館でその世代の女性がみんな泣いてたよ。

韓国の不良少女にあたる部分に日本のコギャル文化を持ってきたのはヒットだと思うんですよね。いわゆる品行方正な清純さ、に対して顔を黒く塗り大声で笑うというコギャル文化の喧噪みたいなあの賑やかさは韓国版にはないところで、外国の人が見たら「日本の高校生ってこんなんなんだ」と驚くかもしれない。

広瀬すずという人はどのポジションの役もできる人だけど、本当は鰤谷、あの悪役の少女を演じたい人だと思う。大根監督は鰤谷役をコミカルな「やられ役」として描いてしまっているんだけど、あれは韓国版ではクールな敵として描かれている。たぶん韓国の映画スタッフなら広瀬すずをあの敵の不良少女の役に置くし、そうしたら映画がものすごく引き締まると思う。にらみあった時に山本舞香に負けない眼力が出る人だと思うんですよね。ただ、大量のCM契約背負ってドラッグ漬けの悪役なんかできるわけがないし、そもそもこの映画自体が「広瀬すずが主演でルーズソックスはいてやりますから、水着にもなりますから、これイケるでしょ」と企画会議を通してるのは目に見えているわけで、そういう意味では広瀬すずの女優としての資質って、人気がありすぎてまだ反面しか見せられてないと思う。広瀬すず、舞台挨拶でよく「これじゃCM減る~」というギャグを飛ばすんですけど、色々縛られてうざいなという思いもあるのではないかと思う。

大人組のドラマ部分にむしろ大根監督のベタな部分が出てしまっていてきつい面も感じたんだけど、篠原涼子板谷由夏ともさかりえの演技がドラマを救っていると思う。大根監督は女優に足を向けて寝ないように。特に篠原涼子の素晴らしさ。ゴリゴリの女刑事と引っ込み思案で夫にものが言えない専業主婦って正反対の役なんだけど、篠原涼子という女優の中に「女性だけが感じる辛さ」みたいな核があって、この映画でもそれが見事に表現されてると思う。

最近逮捕された俳優が渡辺直美をいじめるパワハラ上司を演じてるんだけど、これが上手い。「社会の厳しさ、ブラック企業のつらさ」みたいなのをほとんど彼の演技一発で担保している。重要な場面なのでDVDではカットしないでほしいんだけど、無理かなあ。

ツイッターでも  ここを押すとTwitterで書いた感想モーメントが全部表示されます 書いたけどこの映画、パンフレットのデザインが素晴らしいんですよ。白いキャンバスに白い絵の具でルーズソックスを一筆描きみたいに描く、これルーズソックスを知らない人にとっては何の絵だからわからないと思うんですよね。「見える人には見える、分かる人にはこれが何か分かるでしょう、そういう映画です」っていうアートになっているんですよ。たぶん僕が人生で見た映画のパンフレットの中で一番優れたアートだと思う。誰が描いたんだろう。