映画『天気の子』感想。ポストジブリの期待からあえて距離を置く新海誠監督ら若手の俊英たち。あと『空母いぶき』『新聞記者』『天気の子』の3連発に出演する本田翼のアナーキストぶり

 

 

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たぶん国民が見たかったのは『ラピュタ』みたいなやつだよ!でも名作

『天気の子』のネタバレを含みます。タイトルがネタバレっぽかったので直した。

リアルサウンド映画部様で『天気の子』の記事を書かせていただきました。まずはこれ、正直にポジティブな感想なのでリンク先の記事を読んで頂きたい。良い映画だと思います。ここまで良くなってるとは思わなかった。

realsound.jp

『天気の子』そのものについての評価は上の記事の中で書きたいことは書いてしまった感があるんだけど、わりと今回、僕マジで新海誠監督の実力をあらためて見直した部分があります。『君の名は。』は東宝がシナリオチームを組んで間口の広いエンタメに仕上げた部分があって、大ヒットして新海誠監督の権限が強くなったら悪い部分出ちゃうんじゃないかな?ラストでいつものあの感じになって家族連れがドン引いちゃうんじゃないかな?という危惧はいろんな人が出していて、実際に公開後もそういう先入観に引っ張られた感じで「新海誠監督やっぱりやっちゃいました!」「やっちゃったか~」的な感想が多いんですが、でも一般の人がポカンなのかというとそうじゃないですからね。ちゃんと間口の広さを保ったまま、ある意味では村上春樹海辺のカフカ』的な現代文学性っぽい深みを付加している。興行的にも相当なヒットが見込まれているし、前回の東宝チーム戦に比べて今回はかなり新海誠監督の作家性を出して、なおかつそれで成功しているというのは素直にすごいと思います。

 

 

 

 

 

とはいうものの、だ。

 

お客さんオーダーで『ラピュタ』って言ったよね?いや言ってないかもしれないけど暗に「ジブリみたいなの見たいな~」みたいな空気出してたよね?これ『ポニョ』だよね?いやそりゃ『ポニョ』もジブリだけどさ、なに?『ラピュタジブリ設立前の作品だから宮崎駿監督作品ではあるもののジブリじゃないですね』って、新海くんバイトなのに店長の僕に向かってメガネを光らせながらそういう言い方をするんだ。あっそうなんだ。

 

という部分はあるわけである。これは上で書いたリアルサウンドの記事とある意味で矛盾した思いだけど、『作品そのものは素晴らしい、でもこの作品からこぼれ落ちてしまった観客層もいるなあ』という思いはあるんですよね。これは細田守監督にも言えることなんだけど、ポスト宮崎駿を待望される若手監督がみんな『ナウシカ』『ラピュタ』『トトロ』あの辺をとびこえてみんな宮崎駿の老境みたいなマジックリアリズムに接続してしまうわけですよ。細田守監督の『未来のミライ』とかもう『風立ちぬ』とか黒澤明の『夢』みたいな不気味なムード漂ってるわけでしょ。まだ若いのになんでそんな所いってんだよという。ラピュタ作れよラピュタ。「ふははは、君はあの晴れ女を路上アイドルか何かだと思っていたのかね。天候操作民族はかつて恐るべき力で天空に君臨し、地上を支配した恐怖の一族だったのだ」帆高「陽~菜~!!(声:田中真弓)」陽菜「今はなぜ天の国が滅びてしまったのか私よくわかる。メディアを支配しても、消費税を10%にしても、人は自然から離れては生きられないのよ!(タイムリーな政治批判)」「バルス!的な何か!」どーん!大雨で悪党壊滅!のち晴れ!主題歌、井上あずみの小学生でも歌えるすげえわかりやすい歌詞とメロディ!RADWIMPSのイメージソングはイメージアルバムで安田成美的に収録されていますのでご安心下さい!

 

という王道の国民的エンタメを誰も作っていないという問題は、『天気の子』が予想をはるかにこえる傑作であったという事とは別にあるわけですよ。誰も宮崎駿の後を継がない、外形的にジブリを継ごうとする人は逆に宮崎駿の持っている深いコクが出ないみたいな、これは宮崎駿という映像作家が広いエンターテインメント性と複雑な文学性を併せ持った複合体であったということにも関係してるとは思うんですけど。

 

 

『天気の子』ってすごい傑作で、たぶんこの分でいくとまた今回の興行収入も100億軽く超える可能性はあるんですよね。ヒットのスケールとしては国民的で、しかも内容としてはある種の文学性も持っていて、海外で内容的に評価される可能性もあると思います。ただ、やっぱり新海誠監督の中に「十代のころの感性」が深くあって、本人もそこから動きたくないという気持ちが強いんですよね。細田守監督もそうだし、庵野秀明監督にいたっては言うに及ばずなんだけど、庵野秀明細田守新海誠、みんな「ティーンネイジムービー」的な感性があって、ジブリがカバーした「5歳から80歳まで」みたいなああいう「老若男女」という人類的な広さをカバー出来る作家がいない。まあそんなのそうそういるわけないのもわかるんだけどさ。

 

高畑勲の死去、宮崎駿監督の加齢という現象の前に、多くの映画関係者、テレビ局、広告代理店が「ジブリという王国を継ぐもの」を探している。『バースデー・ワンダーランド』の原恵一監督とかさ、明らかにテレビ局からの白羽の矢で「ちょっとジブリっぽいもの作って下さい」という資質に合わないチャレンジをやってる感があったと思う。でもみんなやっぱりど真ん中には行きたくないというのがあるんですよね。行ったら「宮崎駿の模倣だ」って言われるのが目に見えているんで、賢い作家はみんな行かない。でもやっぱり、いつか誰かがあのポジションを担わなくてはいけないというのはあると思うんですよ。それが彼らの中の誰かが成熟して背負うことになるのか、それとも新しい才能が担うのかはわからないし、一人の作家、一つの作品が国民全体を背負うような時代が終わって、多くの作品が多くの観客を背負うのが自然な姿なのかもしれないですけど。

 

と、ここまで書いて、今日のニュースの本田翼の舞台挨拶があまりにも面白かったのでブログのタイトルもトップ画像も変えてしまった。

www.excite.co.jp

ばっさー小説版読んでねえのかよ。というか作者が新海誠監督だということすら知らないのかよ。さすがは『空母いぶき』『新聞記者』『天気の子』という3連発に出演するアナーキー女優である。「ここで新海監督に気に入られとこうかな」みたいな所がカケラもない。むしろ軽く殴ってる感じすらある。最高だよばっさー。

予告編だけ見て公開前にさんざん叩かれたんだけど、本田翼さんの声の演技はとてもよかったです。本当にばっさーはフタをあけるまで良いか悪いかわからない。ばっさーは声や話し方にかすかなノイズがあって、良い方に役とあった時はそれがすごくリアルな演技になるんですよね。大ヒット映画でばっさーの良いところが出てよかった。バンザイ。

 

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