映画『雪の華』感想 難病悲恋ものというより岡田恵和脚本による『逃げ恥』男女逆の契約恋愛映画

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岡田恵和のピンポイント当て書き脚本で中条あやみの魅力大爆発ムービーに

(ある程度のネタバレを含みます)

中条あやみさんは自分でもインタビューなどで言及しているが、バリバリに器用なタイプの女優ではないと思う。「昔のオーディションで『モデルじゃなくて女優として来てるんだからちゃんとやって』と監督に言われてもう辞めようと思った」とテレビで告白したこともある。

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何というか、日本映画で求められがちなガーッと大声で爆発する演技が苦手で、一定以上の大声が出ない線の細い女優と思われてるところがあると思うのだが、今回は岡田恵和脚本が明らかに中条あやみにピンポイントで照準を絞った当て書きで彼女の魅力を100パーセント引き出していた。中条あやみフルチューン最適化ムービーだと思う。

 

今回の中島美嘉の名曲『雪の華』を映画化した今作の特徴は「オリジナルストーリーである」というところで、現状の日本映画で漫画や小説を原作にしない大規模作品は珍しい。しかし、原作が「音楽」ということになれば、実は相当に脚本家のオリジナルの裁量の幅が増える。過去には「ハナミズキ」や「涙そうそう」などヒット曲の映画化があったけど、歌詞を思わせるシーンをオリジナル脚本に盛り込むのはそう難しくないわけで、脚本家として岡田恵和が腕を自由に振るえるわけである。

「また恋人が死ぬ話かよ」と思うかも知れないが、岡田恵和脚本は確かに「難病」を映画の道具立てにしているんだけど、本当のテーマはどっちかというと「内向的でネガティブな女の子が百万円でワイルド男子と付き合う」という『契約恋愛』、いわば逃げ恥の男女逆バージョンのような展開にあったと思う。余命1年の美雪(中条あやみ)はひったくりから助けてくれた悠輔(登坂広臣)に100万円で1ヶ月の交際を申し込む、という物語なのだが、この「内向的な女子がお金でゴツい男子に言うことを聞かせる」という展開がラブストーリーとしてくすぐったくて良い感じなのである。これ難病設定いらなかったんじゃね?と思う。たぶん岡田恵和もそう思ってるのではないかと思うが、興業上そうもいかないのだろう。とにかく中条あやみが可愛い。岡田恵和中条あやみの可愛いところを全部出すぞ!と思いながら脚本を書いてるとしか思えないほどだ。内向的であること、自信が今ひとつ持てずにいること、そういう物語上の美雪の抱える葛藤が、中条あやみの長所も短所も含めた資質と重なりあって、悠輔(登坂広臣)の持つ武骨さや強さに惹きつけられる必然性もよく描けている。突然ふざけてテケテケ走り出した中条あやみ登坂広臣があわてて追いかけるシーンがあるのだが、中条あやみの走り方がもうあからさまにテケテケしていてクソかわいいのである。それもこれも病気で体力が落ちているからである!という脚本上の必然性もあり、大変うまくいっている。

 

岡田恵和脚本は「声」をテーマにしていて、これも声が細いという中条あやみの女優としての資質に重ねているんですよね。クライマックスで美雪が自分の心の壁を破ろうと叫ぶシーンは、中条あやみの女優的挑戦とも重なっている。中条あやみと言えばこれ!というくらいの中条あやみベストムービーだと思う。

中条あやみ、線が細そうにみえて意外と稲森いずみのように息の長い女優として活躍できるのではないか。そんな風に思った一作でした。

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超絶にラストをネタバレするので3行あけたいと思うのだが、

(ネタバレするよ!)

(ネタバレするよ!)

(ネタバレするよ!)

 

実を言ってしまうと映画の中で美雪は死なない。いや別に病気が治るわけじゃないんだけど、悠輔(登坂広臣)に看病されながら「なんだか私長生きしちゃう気がする」と晩年の宇野千代みたいなことを言ってそのままエンディングの『雪の華』になだれこむ。映画としては中途半端なのかもしれないけど、「死んで感動」をやらないのは脚本家としての岡田恵和の意地みたいなものだと思うし、この映画に関してはそれで正解だったと思う。美雪も中条あやみも未来に向かって生きていくべきなのだ。