映画『アクアマン』感想。崖の上のアクアマン、もしくはボーン・セクシー・イエスタデイおじさんとしてのアクアマン

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アクアマンはヒゲマッチョなのになぜマリリン・モンローっぽく見えるのか


バットマン対スーパーマン』のクライマックスに満を持してワンダーウーマンが参戦した時の日本の映画館に満ちた「はあ?」という雰囲気は今も忘れられない。ワンダーウーマン単独映画公開後の今でこそ知名度は広がったが、当時の観客、特に小学生を中心とした層が「ゴジラキングギドラ的なボコスカ合戦を期待して見に来たら思いの他ザックスナイダーの演出が難解で、まあそれでも一応バットマンとスーパーマンは戦っているわけだしヨシとするか」と手を打ちかけたところに全然知らないお姉さんが「みんなお待ちかねの!」という完全にアメリカの観客を想定した演出で登場したわけである。かと言って映画のクライマックスにワンダーウーマンが登場するということ自体が決定的に重要なネタバレなので、事前に宣伝番組で「ワンダーウーマンとは」という予習をさせるわけにもいかず、結果的に多くの日本の観客が「突然現れたギリシャ神話の女神みたいな女が異常に強い」という意味不明の展開に対応を迫られたのだった。

それに比べれば『アクアマン』は『ジャスティス・リーグ』で日本の観客にもある程度の根回しをした上での登場であり、ワンダーウーマン電撃参戦のように観客が豆鉄砲を食らうことはなかった。しかし、それとは別に、アクアマンの単独映画って面白そうか?と言われたらバットマンやスーパーマンに比べて知名度はないし、ワンダーウーマンみたいに華やかでもないし…という印象が正直あったのは事実である。しかし、フタを開けてみたらすごく面白かった、というかアクアマンってこんな人でしたっけ?『ジャスティスリーグ』の時とはだいぶ性格がちがう気がする。ついでに設定も変わってないか。しかしそう言った細々としたあれこれを「こまけえことはいいんだよ!」と吹き飛ばしてしまう陽気な力が映画全体にあったと思う。

思えばヒーローもの、様々な能力を持ち寄る一芸戦士の中で「水が得意なやつ」というのはいつも地味な存在だった。サイボーグ009で謂えば、008ことピュンマがそれにあたり、まあ一応海中を潜ったりして仲間を助けるシーンはあるものの、009の加速装置、002の宇宙まで及ぶ飛行能力、004の人間兵器と呼ばれる戦闘力に比べてなんと限定的でマニアックな能力であったことか。アクアマンにしても、ジャスティスリーグにおいてはそれに近いものはあったと思う。

しかしながら映画というのは見せ方である。ジェームズ・ワン監督、「泳ぐというのはなんてかっこいいんだ!」という水中アクションの爽快感を魅せまくってくれる。設定が多少ジャスティスリーグと矛盾することなど水中だけに屁の河童である。水中の微妙な浮遊感、宇宙空間のような少しスローで重力の弱い感じが映画的にすごく気持ちいいのだ。これが映画の成功の理由のひとつだと思う。アクアマンの戦い方というのも基本「ぶん殴る」「ぶっ叩く」「ぶった斬る」という非常にフィジカルなもので、映画として頭より身体に訴える映像になってるんですよね。

 

もうひとつはアクアマンの性格である。どう考えてもジャスティスリーグより3割増しくらいにバカで陽気になっている。アホのように純真無垢でセクシーな女性キャラクターの人物造形を「ボーン・セクシー・イエスタデイ」などと批評するムーブメントが少し前に話題になっていたが、アクアマンはヒゲのおっさんなのに完全にボーンセクシーイエスタデイおじさんだと思う。カカロット人格と言ってもいい。地上と海、2つの血統に挟まれて対立に苦悩するべきところだけどオラなんだかワクワクしてきたぞ!という非常に無責任な腕力主義。敵のブラックマンタの師匠を「あの時、見殺しにしていなければ…」と後悔したりするのだが、そりゃそうだろ。映画見てて僕も序盤から「えっヒーローなのに殺人しちゃうの」と思ったもの。でもあんま深く考えないのである。どう考えても政治家としては敵になった弟の方が思慮深いのではないかと思えるほどだ。ほとんど異常にケンカの強い崖の上のポニョみたいな主人公であった。しかし物語の主人公としてはこれくら楽天的で身体的な方が見ていて楽しい。ボーン・セクシー・イエスタデイはやはり魅力的なのである。思えば少年漫画の主人公なんてカカロットもルフィもアトムもみんなボーンセクシーイエスタデイで、天真爛漫な存在を物語はどこかで必要とするのだと思う。それが男であれ、女であれ。

 

そんなわけで非常に身体的で官能的な『アクアマン』、理屈の面では多少難があるというか、チャーラーヘッチャラー頭からっぽの方が夢つめこめるーと言った面はあったのだが、それを差し引いてもすごく気持ちのいい映画だった。スーパーマンバットマンワンダーウーマンをさしおいてDC史上最高の動員らしいが、集客効果が積み重なることを差し引いても、この映画の官能性はやっぱり商業的に強いと思いました。